ChatGPTが登場し、多くの企業、個人が生成AIを活用しています。生成AIブームに乗り、多くの生成AI関連スタートアップが出現してきています。
当記事では、2023年5月に$225 Million(約350億円)の資金調達を行い、数ある生成AIスタートアップの中でも注目度が高く、ユニコーン企業の一つでもあるInflection AI社についてまとめていきます。
Contents
Inflection AI 基本情報
会社概要
会社設立年 | 2022 |
本社所在地 | アメリカ合衆国 カリフォルニア州 パロアルト |
プロダクト | パーソナライズチャットボット Pi |
従業員数 | 41 (2023年10月時点) |
直近投資ラウンド | Venture Round |
累計資金調達額 | $1.5 Billion (約2,250億円) |
投資家 | NVIDIA, Bill Gates, Google, Eric Schmidt, CoreWeave, Microsoft, Reid Hoffman |
Inflection AIは生成AIのユニコーン(企業価値が$1 Billion (約1,500億円)を超える創業10年以内のスタートアップ)の中の一社です。
創業して一年足らずでユニコーンの仲間入りをしており、急成長している企業の一つです。
生成AIの中でのカテゴリ分類
Inflection AIは数ある生成AIスタートアップの中でもどのカテゴリに分類されるのでしょうか。
ここでは、Sequia Capitalが発表したGenerative AIを含むAIカオスマップを参考にします。同カオスマップの中ではInflection AIは「フルスタック大規模言語モデル」に分類されています。
OpenAIやANTHROPICと同じく、独自の大規模言語モデルを構築しており、プラットフォーマーを目指していると言えると思います。
OpenAIやGoogleのBardのライバルになると思いますが、MicrosoftやGoogleから出資を受けているのは興味深いポイントです。
Microsoft創業者のビル・ゲイツやGoogleの前CEOのエリック・シュミットからも投資を受けています。
創業者
Inflection AIはDeep Mindの創業者であるMustafa Suleyman氏とLinkedinの創業者のReid hoffmanの二人によって設立されました。
Deep Mind創業者 Mustafa Suleyman
Mustafa Suleyman氏は2014年にDeep MindをGoogleに約$600M(900億円)で売却後、しばらくはそのままDeep Mindに所属しています。2020年からはGoogleにVice President, AI Product Management & AI Policyという肩書きで勤務しています。
その後シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるGreylock PartnersでVenture Partnerとして活動します。
Inflectin AIは、彼にとってはDeep Mind以来、設立した会社となります。
CEOはMustafa Suleyman氏が務めています。
Linkedin創業者 Reid Hoffman
もう一人の創業者のReid Hoffman(Linkedin創業者)とはGreylock Partnersで同僚でした。
なお、Reid HoffmanはOpenAIの取締役でもありました。
しかし、2023年3月にInflection AIや、Greylock Partnersを介して投資をするAI系スタートアップと競合となることを回避するため、OpenAIの取締役を辞任しています。
プロダクト
パーソナライズチャットボット Pi
Inflection AIのプロダクトは、Piという名前のAIチャットサービスを提供しています。
ChatGPTなどその他のAIチャットとの大きな違いは、Piはユーザに共感し、とても親切で、フレンドリーで寄り添った会話を行う点であるとInflection AIは主張しています。
実際にどのような挙動をするのでしょうか。
Inflection AIのホームページからPiを使ってみました。
Piを使ってみた
Inflection AIのホームページにアクセスし、右上のMeet PiをクリックすることでPiのインターフェースを開くことができます。
Piを開くと、早速会話が始まります。
最初からいきなりPiから「自由時間は何してる?」と質問が来ています。
会話をリードしてくれています....!
「友人と飲みに行くのが好きだ」と回答したところ、何か好きな飲み物はあるのか?と回答してくれました。
こちらの発言に対して、深堀し、話を広げようとしてくれます。コミュ力高いですね。
少しだけひねった回答をしてみたいと思います。
「日本に住んでいるので、日本酒が好きだ。日本酒を友達を飲むのはとても楽しいが、友達のほとんどがビール党だ。だから日本酒を一緒に飲んでいる友達を探している。」
と言ってみたところ
Pi:「それは面白そうですね!日本酒を友達と飲むのはすごく良い文化体験だと思います。残念だけど私には体がないから一緒に飲めないけど、あなたがどんな日本酒を飲むのが好きなのか聞きたいです。どんな日本酒が好きですか?」
と回答してくれてました。
感覚的にはすごくコミュニケーションの高い初対面の人と話しているような感じで、楽しいです。
個人的にはChatGPTなどその他のAI Chatと会話する際は、何か無機質さを感じることがあったため、「ユーザに寄り添う会話を展開する」という特徴は確かに差別化要素であると思います。
左のパネルのHomeボタンをクリックすると、会話の雛形のようなものが表示されます。こちらを選択することで、ブレインストーミングや、情報収集、計画の作成や雑談などの会話をPiからリードしてくれます。
「本、映画、ポッドキャストの探索」を選択してみました。
Pi:「本や映画のおすすめはお任せください!何かお探しですか?」
ここでは、シリコンバレー、スタートアップやベンチャーキャピタルに関連したお薦めの映画を聞いています。
「ソーシャルネットワーク」「インターン」「シリコンバレー(ドラマシリーズ)」などをお薦めしてくれました。この領域では定番・かつ人気のタイトルを列挙しており、情報としては間違いなさそうです。
なお、英文にタイポや文法的なミスがあっても問題無く意図を汲み取ってくれています。
プログラミングはできるのか
続いて、プログラミングはできるのか確認してみます。
ここではPythonのバブルソートアルゴリズムのサンプルプログラムの出力をお願いしてみます。
バブルソートのプログラムは正しく出力できました。関数の利用例まで出力してくれています。
どれだけ複雑なものに対応できるかは未知数ですが、一旦プログラミングについても問題無くできるようです。
ただ、ChatGPTのようにエディタに書かれたプログラムのような出力は現状はできないようです。
日本語対応はできるのか
英語ではユーザに寄り添りそった会話を行うことができました。日本語でも会話はできるのでしょうか。
日本語もできるみたいです。絵文字まで付けてくれています。
ちなみに音声読み上げ機能もあるのですが、日本語の読み上げは微妙でした。漢字の読みができていない(おそらく中国語発音になっている様子)のと、イントネーションが完全に外国人訛りです。(これは逆に再現が難しそう。)
ここは改善の余地ありです。
日本語で質問もしてみましょう。ここでは週末の予定について相談してみます。
原宿のミュージアムガーデン??Webで調べてみましたが、見当たりませんでした。また「上記のトリスティッドサウルス」という表現もよくわかりません。
やはり、日本語の精度はまだまだ実用レベルではないようです。
ちなみにChatGPT (GPT-3.5)にも同じ質問をしてみました。
代表的な観光地を列挙してくれており、回答内容にも納得感があります。日本語での利用はChatGPTにはまだ及ばない状況のようです。
現状苦手とする領域
現状は法律や金融、医学などの、特定の領域のプロフェッショナルサービスは苦手としていると同社は述べています。
またPiは2022年11月までの情報を学習しているとのことで、それ以降に起きた事象については持っていません。
なお、iOS版もリリースされていますが、残念ながら日本のAppstoreでは未公開でした。(※2023年10月15日時点)
独自LLM「Inflection-1」
PiはInflection AI社が独自で開発した大規模言語モデルである 「Inflection-1」をベースに稼働しています。
Inflection-1はNVIDIAのGPUであるH100を数千個使用し、巨大なデータセットで学習し、構築されています。
Inflection-1はクローズドソースとなるので、ソースコードは公開されていません。ただし、APIの公開は予定しているようで、2023年10月時点ではWeb上でウェイトリストに登録することが可能です。
まとめ
今回は注目の生成AIスタートアップの一つである、Inflection AIについてまとめました。
GPT-4,、LLaMA 2、Mistral 7Bなどオープンソース、クローズドソースの大規模言語モデルが乱立する中、ユーザに共感し、寄り添うような回答や親近感がある回答を出力するという観点で、Inflection AIのPiは独自のポジションを確立していくことが予測されます。
一方で、日本語対応や特定の専門知識が必要とされるような領域はまだ苦手としています。
悩み相談やカウンセリング、雑談などの用途はPi、仕事の調べ物やプログラミングはChatGPTなど用途によってLLMモデルを切り替える、将来的にユーザはそのような形で使い分けるようになると思われます。
今後の日本語対応の精度向上やAPI公開など、今後の動向にも注目が必要なスタートアップの一つです。
サムネイル画像:https://inflection.ai/